インフラの長寿命化によって地域の生活の基盤を支える

課題

インフラの長寿命化によって、地域の生活の基盤を支える

(SDGs 11に関連)

活動内容

~社会を巻き込んだ活動~

多くの技術革新や情報通信が謳われる中、人間の生活の基盤であるインフラ構造物の荒廃は、日本でも着実に進んでいます。長崎県には教会群や多くの観光資源が離島・へき地に点在していますが、それらを結ぶ橋や港湾等、インフラ施設の老朽化が進行しています。県の施設費や維持管理費の財源は厳しく、技術者も高齢化が進む等、多くの課題があります。

長崎大学工学部では、2007年1月、長崎県、県内市町村、地元企業との連携により「インフラ長寿命化センター」を設立しました。本センターでは、地域再生人材の育成のため、「通守(みちもり)」養成プロジェクトを実施しています。「道守」とは、県内の自治体職員、民間企業、NPO、地域住民を対象とし、「まちおこし」の基盤となるインフラの再生・長寿命化に関わる人材を育成するものです。インフラに関連する公的資源を持つ方々はレベルに応じた基礎・応用知識を習得し、一般市民(ボランティア・愛護団体等)は道路や橋等、日常的な観察や点検ができる知識や技術を習得します。

インフラの維持管理には、検査、診断、特定高度技術等、さまざまな技術が必要になりますが、広い県内を常に専門家が見て回り、インフラの状態をチェックするには限界があります。そこで、毎日の生活で目にするインフラについて、割れ目がないか、ひびが入ってないか等、状態を確認してもらい、異常があれば大学や県に連絡を入れることで、速やかに専門家が急行し、チェックすることができます。受講者は本講座を通して、こうしたインフラの異常を察知できる目を養います。異常を早く発見できればできるほど、維持管理コストを軽減することができます。

~「インフラ長寿命化センター」の歩み~

このような取り組みは、離島やへき地のインフラの維持管理にも生かされています。「道守」養成プロジェクトは離島でも実施され、五島市、新上五島町、対馬市、壱岐市等、多くの地区から道守認定者が生まれ、地勢条件に応じた維持管理が行われています。

壱岐市や新上五島町では、道守認定者の組織「道守養成ユニットの会」の地域部会で道路見守活動(道路異常点検と清掃活動)やカーブミラーの清掃活動等のボランティア活動をしています。五島市では、長崎県の橋梁トンネルの直営点検に参加しています。

また「インフラ長寿命化センター」の取り組みは、地方自治体や日本政府の政策にも反映されています。2015年1月、「道守」は国土交通省「社会資本の維持管理及び更新を確実にするための民間資格」として登録され、長崎県や国交省九州地方整備局が行う入札では、技術者を評価するための資格となっています。また2014年には、科学技術振興機構(JST)のSIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」で、インフラの点検や診断、補修、情報・通信、ロボット等の先端技術の開発・実装が開始されました。2016年からは、これらの研究成果を地域で活用するため、地域での社会実証実験が進められています。長崎県でも、道守の方々と共に、インフラ点検技術の実証試験を行っています(本実証実験には、九州・山口地域では11大学の研究グループが参画しています)。

2019年3月末時点の地区別道守認定者の県内分布状況

さらに2018年、SIPの研究成果を活用し、より官民の研究開発を拡大するため、内閣府「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」が開始しました。令和元年度のテーマの1つとして、「革新的建設・インフラ維持管理/防災・減災技術」が設定され、長崎大学、東北大学、秋田大学が、インフラ維持管理におけるデータベースの構築・連携等を検討するため、共同研究を行っています。これは地方公共団体や国等のデータベースを統合し、インフラの維持管理データを関係者間で共有するプラットフォーム構築を目指しています。長崎大学は長崎県、東北大学は島根県、秋田大学は秋田県と連携し、データ提供依頼や調整等を行っています。

長崎県内では、長崎大学と長崎県土木部が、長崎市や五島市、新上五島町のデータを活用し、道路やトンネル、斜面や港湾、河川等のデータを統合したプラットフォーム構築に取り組んでいます。インフラの維持管理だけではなく、防災情報等のデータも活用される予定です。

~大学として、社会のために~

「インフラとは『人間が人間らしい生活を送るために必要な大事業』である」(塩野七生七海、「ローマ人の物語Ⅹ」新潮社)、また「モビリティは個人の自由、社会参加、及び豊かさと経済成長のための重要な前提となるものである。そのために必要な基盤が質の高い交通インフラである」(大石久和氏、国交省元技監、ACe建設業界、下言上用、2013年のドイツの三党合意文書)との言葉があります。このようなインフラの認識は世界に共通していますが、インフラの維持管理に関する日本の知見を、開発途上国に広げる取り組みも行われています。特に橋の維持管理を学ぶ「橋梁維持管理研修」がJICAを通して長崎大学で行われています。インフラ長寿命化センターは国内外の人々と共に、共に課題解決に取り組む人材の育成に携わっています。

JICA「橋梁維持管理研修」に世界中から参加する研修員と協議する西川貴文准教授

場所・拠点

五島市、新上五島町、対馬市、壱岐市

中心人物・組織

前田 浩 教授(工学部 / インフラ長寿命化センター長)

山下 敬彦 教授(工学部 / インフラ長寿命化センター副センター長)

中村 聖三 教授(工学部 / インフラ長寿命化センター副センター長)

参加人数規模・期間

道守養成コースの受講者:2019年は158名、認定者数は128名。

パートナーシップ または FUNDING

  • 長崎県土木部道路維持課
  • 宮崎県県土整備部道路保全課
  • 五島市
  • 新上五島町
  • 対馬市
  • 壱岐市
  • 岐阜大学
  • 新潟大学
  • 愛媛大学
  • 山口大学
  • 舞鶴高専
  • 宮崎大学
  • 関西大学
  • 有限会社 吉川土木コンサルタント
  • 株式会社 上滝
  • 株式会社 アサヒコンサル
  • 株式会社 麻生
  • 株式会社 三菱日立パワーシステムズ検査
  • 株式会社 基礎地盤コンサルタンツ
  • 一般社団法人 リペア会
  • 株式会社 日本工営
  • 株式会社 全日本検査技術
  • 上野企画
  • 株式会社 BMC
  • 株式会社 西日本高速道路
  • 一般社団法人 PC建協
  • 株式会社 大島造船所
  • 一般社団法人 日本橋梁建設協会
  • 上田記念財団