超高齢化社会に直面する島で人の健康をいかに創生するか

課題

島の人々の健康をいかに守るか?

(SDGs 3に関連)

活動内容

~社会を巻き込んだ活動~

長崎大学と離島の医療との関係は深く、開学以来、長年にわたって離島医療を支える人材を輩出してきましたし、50年以上前には西海市松島でフィラリア症調査を実施するなど、長いかかわりの歴史があります。2004年度、地域医療に関する研究と教育、そして診療支援の充実を図るため、長崎県と五島市による自治体初の寄付講座「離島・へき地医療学講座」が長崎大学に開講しました。開講と当時に長崎県五島中央病院内に「離島医療研究所」が開設され、離島での重要な活動拠点として様々な活動を支えています。

これらの活動の一環として、島の人々の健康を守るため、自治体主催の健康診断(住民基本健康調査)と共に特殊検診を行っています。受診者が希望すれば、歯科疾患、骨粗しょう症、関節リウマチ、フレイルや動脈硬化などの特殊検診を受けることができます。3年間で五島市の全地区を回って特殊検診を行っています。

特殊検診実施のため、長崎大学の生命医科学領域から多くの教員や学生が参加しており、離島・へき地医療学講座と地域医療協働センターが中心となって調整・運営をしています。

五島市の健康診断・特定検診に参加する教員と学生
五島市の健康診断・特定検診に参加する教員と学生
~研究活動~

現在だけではなく、将来的に島の人々の健康を守るためには、未来の医療人を育てていくことも大切です。長崎県の離島では、病院や診療所、社会福祉施設、訪問看護ステーション、行政など、地域のヘルスケアシステムに関わる多くの施設や団体に協力してもらい、実践的な地域医療教育が行われています。

長崎大学医学部では、臨床実習の一環として、医学生全員を対象に長崎県内離島をフィールドとした地域医療教育(離島医療・保健実習)を2004年度から行っています。対馬、壱岐、上五島、下五島に1週間滞在し、地域の保健・医療・福祉・介護に関わっている施設や職能団体をめぐって包括的な地域医療・ケアを学びます。この実習には2006年度から他大学の医学生も受け入れ、加えて長崎大学薬学部・歯学部との共修が導入されていますので、今では大学と学部を超えた総合的な地域医療人教育プログラムへと発展しています。さらに、福祉系人材を養成する長崎純心大学とも共同の教育プログラムが加わり、離島・へき地医療の現場体験を通じて、専門分野の質を高めると同時に地域包括ケアシステムの理解を深め、介護や福祉の視点をもった医療人を育てることを目指しています。

また毎年8月には「長崎地域医療セミナー」を五島市で開催しています。2006年に始まった前身の「長崎家庭医療集中セミナー」から継続し、2019年には通算13回を迎えました。2016年から長崎純心大学の学生も参加し、医療と福祉の異なる視点からフィールドワークやグループディスカッションを行いながら、将来の地域包括ケア、プライマリケア、家庭医療、総合診療といった分野での活躍を目指して切磋琢磨しています。

また研究活動としては、特定健診等で得られたデータをもとに、骨折や心筋梗塞、脳卒中、ぶどう膜炎など、特定の疾患を追跡するコホート研究も実施されています。研究に協力して頂いた方を長期間追跡し、主に生活習慣病を発症するかどうか、また発症に関連する要因は何かを疫学的に調査研究しています。こうした地域疫学研究は自治体と連携して行われ、データは厳重に管理されています。もし発症する人に共通の特徴やリスク要因が見つかれば、将来の発症予防に生かせる可能性もあります。

~大学として、社会のために~

五島市では、五島市、五島薬剤師会、長崎大学離島・へき地医療研究所が連携し、市民の調剤情報を共有する電子システム(お薬ネット)を2013年から導入しています。通常のお薬手帳では、薬剤情報が書かれたシールを患者さんが貼り忘れたり、救急時に携帯していなかったりと、処方されている調剤情報が医療者に正確に伝わらないという問題点が指摘されていました。

お薬ネットでは、五島市のすべての調剤薬局が参画しており、これによって、全市民がネットワークを利用できるようになりました。情報は各調剤薬局から自動的に登録されるため、患者さん自らが管理する必要はありませんし、たとえお薬手帳を携行していなかったとしても、情報共有の同意をしていれば五島市内のどの薬局でも調剤履歴を確認することができます。医療者に正確な服薬情報を伝えることができますので、安心・安全な服薬指導を受けることができます。さらに、このネットワークには、地域の見守り情報(緊急連絡先、家族構成、通院状況、買い物の状況等)も統合されており、緊急時には役立てることができるようになっています。また、ネットワークのデータはクラウド化され、遠隔バックアップも行われているため、災害が起こっても復旧しやすい仕組みになっています。

お薬ネットに蓄積されたデータはインフルエンザの予防対策等にも活用されています。具体的には、お薬ネットの調剤情報をもとに、抗インフルエンザ薬を処方された患者を抽出することで、インフルエンザの発生状況を地域別、年齢層別にリアルタイムで把握することができます。インフルエンザの流行シーズンには、医師や薬剤師はもちろん、集団発生が起こりやすい学校や施設などに毎日迅速に調剤速報を伝え、診療支援と予防の啓発を図っています。

お薬ネットのシステム開発はクラウド型電子カルテサービス「医歩ippo 地域お薬カルテ」を提供するメディカルアイ株式会社が行いました。

場所・拠点

拠点 五島市:離島医療研究所(常駐教員2名)、予防医科学研究所(常駐教員2名)

活動地域 五島市、新上五島町、小値賀町、壱岐市、対馬市、平戸市

中心人物・組織

前田 隆浩 教授

(医歯薬学総合研究科 離島・へき地医療学講座)

永田 康浩 教授

(医歯薬学総合研究科 地域包括ケア教育センター)

参加人数規模・期間

離島(五島市、新上五島町、壱岐市、対馬市)には常に長崎大学から医療人が行き来しており、教員・学生を合わせると、毎年約200名が離島を訪れている。

パートナーシップ または FUNDING

  • 五島市 国保健康政策課
  • 新上五島町 健康保険課
  • 壱岐市 保健課・健康増進課
  • 対馬市 健康づくり推進部 健康増進課
  • 平戸市 市民生活部 健康ほけん課
  • 長崎県 福祉保健部
  • メディカルアイ株式会社