パネルディスカッション 「島の課題解決とパートナーシップ」
【下川理事】(以下「下川」)
今回のシンポジウムの趣旨は、長崎大学と地域に実際にいる方との接点を作り、問題点を明確にすることです。フロアの方も含めてディスカッションをしていきたいと思います。
大学内での意見の中には、大学が地域の課題を解決しなければ大学の存在意義がないのではないか。そのためには、シンクタンクを大学内に作り、地域から問題提起があった際には学術的な助言が出来るようにしておく必要があるのでは、という声もあります。
大学の存在意義を考えた場合でも、SDGsと大学はリンクしているものであると認識しております。パネルディスカッションでは、地域の方から本質的な問題は何か、また大学に何を求めるかを伺います。
【五島市 地域おこし協力隊・濱本 様】(以下「五島・濱本」)
離島では、人口減少・高齢化の特徴があり、どの産業でも人手不足が課題に挙がります。
現在の私のミッションとして、ドローンを使った産業を構築することがあり、人手不足という課題に対してドローンを活用してアプローチしているところです。これは主に”高齢化”を意識した取組みです。
【五島市三井楽支所 地域おこし協力隊・宮本 様】(以下「五島・宮本」)
確かに、離島の人口は減少しています。五島市では直近4年間の間で若者が進学のために951人が島外転出しました。
若者の島外転出を押さえるため、若者が島に残るチャンスとして、大学のサテライト学部(分校)を五島に作ってもらいたいです。これは、人口流出対策となるだけではなく、家計の経済的な負担軽減と島の活性化にも直結すると考えます。さらには、今現在島にいる若者達が学び直す機会にもなります。
また、活動している中で、民間と行政の隙間を感じるので、民間と行政の間に学術的な立場の大学が介入することで、良い潤滑油になるのではと考えます。
【下川】
今現在の長崎大学と地域の関係はどのようなものですか?
【長崎大学地域医療協働センター・前田教授】(フロアからの意見)
医学教育においては、大学内だけの教育では偏りが出てくるため、地域医療教育が重要視されてきています。そのため、地域に頼らざるを得ないところです。
島で地域医療教育を行うメリットは、連携全体が見渡しやすい、かつ短期間で学習効果が見えやすいという点です。
さらには、地域医療教育だけではなく、地域そのものを知ることが医学教育では大事とされてきています。地域に住んで地域の内部を知る、ということが今後は必要となってきますので、離島住民の方にはその受入れ体制を整えてもらっています。
また、学生が地域住民に健康講話を行う等で地域住民とふれあう機会は作っています。
【長崎大学地域包括ケア教育センター・永田教授】(フロアからの意見)
学生を見ていると、地域医療教育前後で目の色が変わります。何よりの先生は地域の方々だと感じます。これをいかにして制度として構築していくかというのが我々の課題です。
【下川】
上五島の実状はいかがですか。
【新上五島町総合政策課政策推進班係長・伊賀 様】(以下「新上五島・伊賀」)
海洋未来イノベーション機構のニシハラ先生と学生と一緒に「なぜ良い藻場には海藻が生えるのか」という研究を行っています。そういった中で、漁師がどうやったら生活できるのか、若者がどうやったら漁師になるのかを学生と一緒に議論しています。
漁業と融合できる再生可能エネルギーをどう作るかのモデル事業も行っています。自立できる漁業と海洋再生可能エネルギーの融合を目指しているところです。
【下川】
住民としては、沖合養殖や風力発電などが産業としてどのくらい地域に貢献されるか具体的な数値等で知りたいと思うと思うのですが、具体的な将来像はどのようなものですか。
【長崎大学環東シナ海環境資源研究センター・征矢野教授】(フロアからの意見)
漁業と融合できる再生可能エネルギーについては、まさに始まったばかりのため、データが少なく、算出・シュミレーションが難しい状態です。
プロジェクトを促進するためには、大学が地域に基盤を確立することが一番良いと考えますが、水産・海洋工学分野の場合はハード面への投資が必要となります。大学だけでは投資をまかなうことは困難ですが、行政や民間と協力することで実現可能となると考えます。そうすると、島に合わせた実状が見えてきて算出ができるようになります。
【下川】
小値賀町での課題はありますか?
【小値賀町・イトウ様】(フロアからの意見)
水産関係で大学と連携しているときいていますが、それ以外での連携はあまりないようですので、どういったことが出来るかを検討するために本日は参加しました。
【下川】
壱岐市みらい創りサイトは先端を行っている印象があるのですが、産学官で活動を行っているのですか。
【壱岐市みらい創りサイト事務局長・篠原 様】(以下「壱岐・篠原」)
どちらかというと行政と民間企業だけで、大学との連携は弱いです。
【下川】
離島間での交流・連携はありますか。
【五島・濱本】
連携がとれていないのが実状です。大学に間に入ってもらって、連携が促進されればと思います。
【下川】
対馬の状況はいかがですか。
【対馬市しまづくり推進部しまの力創生課長・一宮 様】(以下「対馬・一宮」)
対馬市では、担当職員制度を導入し、職員を各地域に複数名配置しながら、今後地域をどうつくっていくかを考えています。地域毎に課題は出てきているのですが、自立出来る地域は自立してもらい、必要な場合にはサポートをしていく体制です。
しかし、行政としても限界がありますが、地域に学生が入ってくると、年配の方はそれだけで元気になります。
実例として、現在12の大学と連携をしていますが、年配の方が学生のために民泊を始めました。その後、交通網を確立しようとコミュニティバスを今度は学生と一緒に新しく開設しました。こうやって外部の新しい知恵・風が入ると地域として動き出すので、もっと大学に地域に関わって欲しいです。
大学との連携に関しては、行政が地域と大学の間に入ってコーディネートをしています。それぞれの研究テーマに応じて適当な地域を紹介しています。
全ての地域を平等に活性化していくことは難しいですが、まずはやる気がある地域を後押ししています。自立出来る地域を創っていきながら、自立が難しい地域を行政がサポートするようにしています。
【下川】
現在はコンパクトシティがトレンドのようですが、対馬はどのようは考えですか。
【対馬・一宮】
対馬の場合は、漁港・山村と地域が散らばっているので、都市型コンパクトシティの形成は難しいと考えます。しかし、地域包括連携という形で、小学校単位で連携が出来ています。
【下川】
離島間の連携はあまりないようですが、長崎県としては課題だと思いますが、いかがですか。
【長崎県企画振興部地域づくり推進課企画監・浦 様】(以下「長崎県・浦」)
このシンポジウムのキーワードは「連携」だと思います。地域間連携、産学官連携、都市部との連携。これらの連携を深めていくことが人口減少に歯止めをかけるのではないかと考えるので、連携作りにしっかりと力を入れていきたいと思います。
現状行っていることは、平成29年から地域商社を各島で立ち上げております。主に都市部の商談会で島の特産品の売り込みを行っています。それぞれの島に魅力があるので、それをまとめることで消費者へのアピールが効果的になります。今後もこういった形で地域間連携を促進していきたいと考えています。
【下川】
それぞれの島に特徴があるので、観光は即効性がある産業だと思いますが、どう思われますか。
【対馬・一宮】
対馬には韓国船観光客が昨年35万人来ました。これは、対馬の人口3万人と比べると約10倍の人数です。今年は40万人を超えると言われています。
地域内の経済維持としては、観光客が来ることはありがたいことですが、直接的に地元にお金を落としてもらう取組みが遅れています。お土産品や特産品など、観光より加工品へのアドバイスを頂けるとありがたいです。
【新上五島・伊賀】
以前、対馬の観光協会にいたときの経験では、近年、観光客数が底打ちだった56万人から2万人ずつくらい増えてきています。一般客に加えて、企業研修などで利用されています。観光連携については、壱岐・対馬・五島で福岡市を中心に離島プロジェクトを展開しています。
【五島市地域振興部長・塩川 様】(フロアからの意見)
こまでは観光客の“数”だけを見ていましたが、五島の観光の場合、自然を楽しむことがメインとなるので経済効果が薄いです。消費額をどうやって増やすかが課題となっています。
また、既存の観光資源に加えて、風力発電への視察が年間1,000人単位で増えてきています。その視察団に対して、長崎大学が学術的な知見も一緒に紹介出来れば視察の価値がさらに上がるのではと考えます。
【下川】
離島の場合、交通網を考えると産業・観光には不利な面もあるのではないでしょうか。
【長崎県・浦】
空路は、都市部からの観光客が増えていますが、現状の離島の空港の滑走路の長さでは対応出来できる飛行機が限られています。島からも空港の滑走路の長さを伸ばして欲しいという要望が県庁に来ています。
観光客の誘致だけではなく、産業の活性化・離島住民の利便性を考えるとインフラ整備はなくてはならないものなので、県としてしっかりと取組みをしていきたいです。
【下川】
企業の方からのご意見を伺いたいと思います。
【一般社団法人イノベーション長崎】(フロアからの意見)
2~3年後の構想として、仮想通貨の「ながさきコイン」の発行を考えています。規制・セキュリティ・税制の問題があるので、これらの動向を見ながら、実需とながさきコインの発行をどうするかを現在研究しています。
【アジア航測株式会社】(フロアからの意見)
弊社は、地図作成、建設関係のコンサルという形で行政・民間の社会インフラ整備のお手伝いをしています。
今回のシンポジウムでは、過去から現在に変わることがどう認められるか、さらに未来にどう向かっていくかという長崎の姿勢が見られ、長崎という印象が変わりました。
【離島経済新聞社】(フロアからの意見)
日本の有人離島の情報を扱っている会社です。
企業・法人からのよくある問い合わせとしては、地域に入っていきたいが窓口が分からない、地域のニーズが分からないといったものです。弊社は、丁寧に取材をし、情報を扱っているので、我々を上手に使って頂ければと思います。
【長崎大学地域医療協働センター・前田教授】(フロアからの意見)
大学が地域と連携する上で、大学が考慮・注意しなければいけない点や要望があれば教えてください。
【五島・宮本】
途切れないことが大事です。途切れずに地域に来てください。どんどん島の人を巻き込んで行って、島の人に当事者意識を芽生えさせることが出来れば、単なる「受入れ側」という意識もなくなると思います。
【対馬・一宮】
島に入って教育・研究・調査等を実施する際には、自治体にも詳細を教えてください。調査内容・人数を事前に教えて頂ければ、行政としてアドバイス・アレンジが出来ますし、トラブルが起こった際にも間に行政が入りやすいためです。
【壱岐・篠原】
もっと実践につながるようなレベルの高い取組みを継続的に行って頂きたいです。
【五島・濱本】
サテライトキャンパス(分校)だけでなく、オンラインなどでリモート学習ができる環境が出来れば良いです。離島の技術者はスキルを上げる機会がないので、島内で学習が出来る、しかも長崎大学がそれを提供してくれるというのはアドバンテージです。長崎大学のこの講座を修了したので、技術者として認められる、といったようになれば良いと考えます。
【下川】
長崎大学グローバル連携機構は、国際的な教育・研究活動を支援する部署です。この取組みを世界に発信して行くべく取り組んでいます。今後も島嶼SDGsとして、島・県と組織を作って、全体として推進していきます。